★受験前の心がまえ★

 声優になりたいのであれば、声優学校(私塾、専門学校声優科)、プロダクション附属養成所、声優仕事に強い劇団などに通う必要がある。
 ここではそれぞれの学校・養成所では、どんな試験をするのかを紹介する。


■ 試験の目的 ■

 試験の目的には、2種類ある。
 ひとつは、選抜を目的したもの。大勢集まった受験者の中から優秀な人を合格させる。
 もうひとつは、あくまでも現状把握。受験者の現時点での能力を測るものだ。
 なお、専門学校声優科の場合、無試験でほぼ全員入学という場合が多い。

 現状把握型試験だからといって、何の準備もしなくていいかといえば、そういうわけではない。受験時に良い印象を与えることはひじょうに大事なことである。もし、合格できたなら、受験時の印象は長い間続くことがよくわかる。
 声優=俳優の世界は、猛烈な競争社会だ。受験の時点からその競争は始まっているといっても過言ではない。


■ 試験の種類 ■

 具体的には、次のような試験がいくつか組み合わされて行われる。

  ●面接
  ●学科試験
  ●作文・小論文
  ●朗読
  ●ナレーション
  ●台詞
  ●エチュード
  ●歌唱
  ●ダンス


■ 面 接 ■

 試験の中で最も重要視されるのは、この面接である。
 ここで試験官が見るのは……

  ●敬語や立ち居振る舞いといった行儀・礼儀
  ●髪型・服装などの外見
  ●立ち方・歩き方・座り方といった姿勢
  ●物事の考え方
  ●真剣度

 行儀や礼儀については、礼法とまではいかない。あくまでも常識的なラインのものだ。しかし、現代の若者のほとんどは、ここで引っかかってしまう。家庭における躾がなっていなかったり、学校においては教師相手にタメグチで話しかけているのだから。社会に通用する行儀・礼儀を体得したいというのであれば、大型書店のビジネス・コーナーに行ってマナー集などを購入し、日常から実践するのが一番である。

 外見については、美醜よりも身だしなみが問われる。アニメ・キャラがプリントされたTシャツだの、ケミカル・ウォッシュのジーンズなどはもってのほか。ファッション雑誌を参考として、自分の体型、雰囲気に合わせた外見としよう。ポイントは清潔感である。
(声優志望者というか、声優ファン、アニメ・ファンって、ファッションがトンデモなさすぎる傾向があるんだよねえ。せめて、清潔感を!)

 姿勢については、現代の若者の90%以上が満足にできない。それは背筋・腹筋が弱く、小さい頃から注意されてこなかったからだ。大型書店の美容コーナーにある「美しい歩き方」の本を参考としたり、カルチャースクールのウォーキング教室などに通ってみてほしい。
(かったるそうにデレ〜と立ったり歩いたりすると、それだけでかなり減点されるよ)

 物事の考え方とは「協調性があるかどうか」である。俳優とは、作品を仕上げる上でのスタッフの一部に過ぎない。協同作業ができる性格でなければ、舞台実習などで困る。「オレは他のヤツと違うんだってところを見せて目立ってやろう」とイキがっても、あまり意味はない。かえって、入所後にトラブルを起こすのでは、と敬遠されることもある。
(だからといって、本人の意志なくデレデレダラダラと友達ゴッコをやれ、という意味ではない)

 真剣度をはかるとは、具体的には「本当に勉強する気があるかどうか」ということである。どこの学校・養成所でも、受けてみるだけの記念受験者にはひじょうに困っている。代表的な質問例は……

  ●なぜ、声優になろうと思ったのか(動機)
  ●どんな声優になろうと思っているのか(将来)
  ●今までどんな勉強をしてきたのか
  ●合格したとして、ちゃんと通えるのか
  ●費用の心配はないか(入所後の生活設計)
  ●家族は了承しているのか(未成年の場合)

 これらにちゃんと答えられるよう、日頃から考えておこう。(その場限りの嘘をついたところで、あとで困るのは他ならぬ自分自身だよ)


■ 学科試験 ■

 学科試験があるところは少ない。しかも、学科試験といっても、中学生ぐらいでもわかる一般常識問題なのだが…… できないんだよねえ。具体的には、次のようなものだ。

  ●文学基礎問題
  ●ことわざ・四文字熟語
  ●漢字問題

 文学基礎問題といっても、作品と作家を結びつけたりするようなものである。中学・高校の国語の時間につかった国語便覧(サブテキスト)を熟読するか、大型書店に行って就職試験用の一般常識問題集を買ってやっていれば十分。

 ことわざ・四文字熟語にいたっては、中学受験のレベルでしかない。書店で問題集でも買ってきてやっていれば十分。

 漢字問題のほとんどは、「書ける」よりも「読める」ことを重視する。具体的には、義務教育で習う当用漢字を全てフォローすること。新聞の一面をきちんと読めれば十分。漢字検定3級の問題集をやっていれば完璧である。


■ 作文・小論文 ■

 ここで審査員が見るのは「まともな文章を書けるか」という論理性、そして、「どういう考え方・感じ方をしているか」ということである。
 論理性とは、すなわち構成のこと。「作文の書き方」のような本を参考にしてほしい。ちなみに原稿用紙をちゃんと使えない人というのも多い。小学校で習っているはずなんだけどなあ。枚数は400字詰め原稿用紙2〜3枚が一般的だ。
 具体的な例題は、次のようなものである。
「私という人間」「演劇と私」「今までで最も感動した芝居」など……


■ 朗読・ナレーション ■

 朗読には、詩と小説の2種類がある。
 朗読のポイントは「課題から受けたイメージを膨らませ、どれだけ、その気持ちを声にのせられるか?」
 ストレート・ナレーションのポイントは「標準アクセントとイントネーションで、どれだけ正確に文章を読めるか? 滑舌は?」
 キャラクター・ナレーションやCMナレーションのポイントは「どの言葉を選んで立てるか? どんな立て方をするか?」
 朗読もナレーションも、技術的には、解釈からなる「言葉の入り・間・転調・仕舞い」を見られる。
 とはいえ、朗読やナレーションを教えてもらった経験がない場合には、句読点を活かして、大きな声で明瞭に読むだけで十分だ。
 流行の人気声優のモノマネでぼそぼそと読んだり、鼻にかけたキャンキャン声を声優っぽいと思っていたり、低音でムードさえ出せばいいとか、息を抜いて読むことをカッコイイと思いこんでいるようだと、かなりマイナス評価される。
 ちなみに…… この時、漢字を読み間違えたりすると、嗤いものにされることは覚悟しておいた方がいい(だから、国語能力は大事なんだってば!)。


■ 台 詞 ■

 台詞には、1〜5行程度の短いもの(200字程度まで)と、20行くらいある長いもの(1200字程度まで)の2種類ある。
 長さはどうあれ、台詞問題において最も大事なのは、「どういう状況で、どういう人間が、どんな相手に対して、どんな相手に発した台詞なのか?」ということを、よーく考え、その気持ちを台詞に乗せること。
 一番いけないのは、「こーゆータイプの台詞は、こーやればいいんだよね〜」と、どこかの声優のモノマネのごとく台詞を言うことだ。
 そういう台詞は「類型的演技」「ステロタイプ演技」「カラオケ演技」と呼ばれ、真面目な演出・俳優・指導者からは蛇蝎のごとく忌み嫌われる。過激な審査員だと、その場で怒鳴り飛ばされることもある。
 演技未経験者の場合は、とにもかくにも一所懸命にやればいい。ちなみに、この演技未経験者とは、学校演劇及び自主演劇も含まれる。
 プロが指導する学校・養成所経験者の場合は、状況・相手といった絵姿を明確に考え、気持ちをキチンとつくることを忘れないように。余裕があるようなら、どの台詞を立てるか、どこに転調ポイントを置くかもプランニングすればいい。


■ エチュード ■

 エチュードとは、実際に身体を動かして、課題演技をすることだ。具体的な問題を挙げてみる。

『嬉々として鼻歌のひとつも出そうな気分で部屋に入ってくる。身支度を整え、部屋を出ようとする時、机の上の封書が目に入る。何気なく封を切る。手紙を読み進うち顔は曇り、悲嘆の表情となる。絶望。やがて意を決して部屋を出ていく』(1999年 文学座附属演劇研究所)

 ポイントは「いつ、どこで、誰が、なにを、なぜ、どうしたのか」を、自分でしっかりと考えることだ。
 特に大事なことは「気持ち=意識の流れ」である。けっして「段取り芝居」になってはならない
 この例題でいえば、まず、自分は誰なのかを明確にし、なぜ、嬉々としているのかを考えておくこと。そして、手紙の内容はなんなのか。そして、なぜ、意を決したのかまでをキチンと考えればよい。
 この手のエチュード問題の場合、所作も評価される。部屋に入る=扉の開け閉め、身支度を整える=服の脱着、封書を見つけ……=手にして、どうやって封を開けるか、手紙を読み進め……=手にした紙の持ち方と視線移動、部屋を出ていく=扉の開け閉め
 これらの全てを訓練なくやれといわれても、いきなりは無理だ。日常から自分の所作・立ち居振る舞いに注意を配っておくことが大事である。


■ 歌 唱 ■

 課題曲をその場でやらされる場合と、受験前に渡された課題曲を準備してやる場合と、自分で用意する場合の3種類に分かれる。
 その場で課題曲を渡される場合、楽譜のみ渡されアカペラで歌うこともあれば、ピアノの伴奏がつくこともある。このように、受験科目に歌唱試験がある養成所を受験する場合は、声楽を勉強しておかねば合格はかなりきつい。コーリュブンゲンぐらいは修了しておくように。


■ ダ ン ス ■

 30秒から1分のダンスを、その場で見本として見せられ、数分後に踊る。およそ5〜10のステップが入っている場合が多い。
 受験科目にダンス試験がある養成所を受験する場合は、ダンスの専門家から指導を受けておかねば、合格はかなりきつい。


■ 安達成彦より ■

 全ての声優学校・養成所・劇団が、これらの試験をほとんどやっているわけではない。自分の受ける学校がどんな試験をやっているかについては、毎年11月に発売される『養成学校問題集』(夏書館)を購入して、参考にするといい。
※当hpの『声優志望者へのオススメ本』コーナーに内容と入手方法が紹介されています。

 私の生徒が某大手プロダクション附属養成所の9月生募集試験を受けた時のルポがあるので、養成所受験とはどんなものか参考にしてほしい。


■ ある声優志望者の養成所受験 ■

 今おわりましたー……。
 あぁ、放心状態。
 自分へのダメ出しといえば
「緊張の余り滑舌がボコボコ! 特にサ行っ! もう一回叩きなおして来い!」
「上手くやろうなんてこと考えるから表現が小さくなるんだ! もっと転調かけないと立てる言葉が流れちゃうだろーが!」
「表現の技術が足りなーい!」……と、いうところで。
 まず、ロビーへ入った後、地下の稽古場に通されます。
 壁沿いにパイプ椅子が置いてあって、受験者はそこに座って待つ形になってます。そして部屋のど真中に、こちらに向かって据えられたスタンドマイク。審査員の方はいらっしゃいません。
 「あれ?」と思ってたら、スピーカーから「それでは、一番奥に座っている方から、一分間の自己アピールを始めてください。それが終わり次第、2階で課題と面接を行います」というアナウンスが。
 それで、てっきりマイクを通して審査員の方が別室で聞いていらっしゃるのかと思ったのですが、卓に座ってらっしゃる(私達が座ってる方の壁の上が、ガラス張りになっていた)のはお一人だけでした。
 つまり、自己アピールだけは別録だったんです。それでまぁ……なんとか出たとこ勝負で自己アピールをすませ、2階へ上がりました。
 3人の審査員の前に、椅子が2脚(一つは待機用)。
 受験者は同じ部屋の後ろの方で待機するという形でした。
 課題は、まず共通問題を読み、その後選択問題を自分で申告して読む、という感じでした。
 私は立てるところが分かりやすいAを選びましたが…… 落ちついて考えてみると、Dにすればよかったかな。誰も選んでなさそうだし、現に選んでなかったから(笑)。
 その後面接。
 面接で聞かれることは人によって大分違いましたが、
「どうしてこの業界を志そうとしたんですか?」
「お金は大丈夫ですか?(ご両親はどう思ってらっしゃいますか?)(通えますか?)」

(>学生)「勉強と両立できますか?」
(>養成所出身者)「今まで受けたダメ出しで、一番よく言われたことはなんですか?」
「自分はどういう声質だと思いますか?(何が長所だと思いますか?)」
(>芝居未経験者)「今までお芝居に関して、自分で何かやってきたことはありますか?」
(>芝居経験者)「演劇部では(高校・大学では、演劇サークルでは)、どんなことをやってきたの?」

 ってな感じで、特に「何故志したのか?」「両親はどう思ってるか?」はほぼ全員に聞いてましたね。
 何人か附属養成所や専門学校出身の人がいらっしゃいましたが、審査員の方に、
「アクセントおかしいって、ご自分で気付いてらっしゃいますか?」
「サ行とラ行がだいぶ甘かったようなのですが……」
「随分と派手に関西弁になってらっしゃいますね」
「演劇部にいらっしゃったんですよね……声が小さいですけど、もう少し大きい声出ませんか?」
(といわれて彼が出した声は、こっちが『はぁ!?』と思うほど小さかったので、失笑をかっていました。うーん)
 とりあえず、本日の格言(?)。
「1回のオーディションは50回の自主練習よりも、自分のダメさ加減を思い知らされる」
「上手くやろうとするからへたくそになる」
 ……今回のことは、いろんな意味で有意義でした。
 もっともっと上手くなりたい! 自分で納得できる演技ができるようになりたい! 緊張していても、大きな芝居ができるようになりたい! 立てるところをもっときちんと立てたい! 転調がもっとハッキリ見せられるようになりたい! ……と、つくづく思いました。


■ またも安達成彦より ■

 原文は、もっと赤裸々に、どういうレベルの受験者がどんなことをやらかしていたのかが書かれていて、かなり笑える。
 まあ、しょうがないんだよね。勉強を始めて3年や5年のレベルなんてものは、たかが知れているんだから。
 この附属養成所の競争率は3.0倍(募集120人に対し応募360人)。ちなみに彼女は合格しました(私にすれば当たり前だけどね)。
 ただし! プロダクション附属養成所というものは、合格さえすればいいってものでもなければ、能力だけで残れるわけでもない。
 通っている最中の姿勢であり、講義を受けた上での成果が、毎回の授業の度に問われる。予習と復習を毎日キチンとやるのが当然である。
 そして、1年後に準所属として残れるかどうかは、その時のプロダクションの営業方針によるからだ。どんなに優秀であったとしても、商品としての価値を認められねば残れない。
 このhp上で、何度も何度も書いていることだが、3年やそこいらの修業歴で声優になれるなんて思っちゃダメだよ。よっぽど優秀でなければ、3年では声優にはなれない。カンの良い人でも5年、一般的には6〜8年はかかることを忘れてはいけない。
 そして、その数年間も、ただただ漫然と過ごしていてはダメ。
 誰よりも真剣に、いつもトップを独走するつもりで、とことん頑張り続けることが大事なのである。
 
 そこまで真剣にやれないというなら、今すぐに諦めた方がいい。
 人生において、最も貴重な時期である青春を捧げねばならないのが、俳優修業というものなのだ。
 何度もいうが、私は「さあ、みんなで声優になろうぜ♪」などという気持ちでこのhpを開いているのではない。本気で「声優になりたい!」という人のために開いているのだということを忘れないでほしい。