腹式呼吸と発声

 役者を目指すのであれば、まずは体力だ。体力がなければ、まともな腹式呼吸すらできないのである。
 ……というと、学校演劇やアマチュア小劇団の経験者は、根性まかせの腹筋運動を思い浮かべるであろうが、それは間違いだ。
 腹式呼吸は、横隔膜運動なのである。この横隔膜と腹筋はイコールではない。いわゆる腹筋運動を数だけやっていても、横隔膜運動の役には立たないのである。
 横隔膜を効率良く動かすために必要なのは、柔軟性と持久力を兼ね備えた全身筋力だ。
 私が勝田で指導していてよく感じることに、最近の若い人は背筋が弱い、というのがある。正しい腹式呼吸をやらせると、ほとんどの生徒は「背中が痛い」とこぼす。だが、背筋もつかった発声でなければ正しい腹式とは呼べないのである。
 実際に発声をさせてみると、ここでもまた学校演劇やアマチュア小劇団の経験者は問題が出てくる。実際に舞台で演ずる時のトーンでの発声ではなく、発声用の発声をしてしまっていることが多いのだ。
 発声用の発声とはなにか? 声を大きく出すとは、大きく呼吸をして「たくさんの息を使って声を出す」ということである。が、アマチュアでやってきた人間のほとんどは、高音に逃げてしまったり、頭の後ろに回して息を使わないで声を出す「発声用の発声」をやってしまうのだ。
 声の正体とは音である。音とは空気の振動なのだから、まずは空気をいっぱい取り入れ、いっぱい吐き出せるようにならなければいけない。これこそが正しい腹式呼吸の基礎中の基礎ともいうべきものだ。
 腹式呼吸での発声ができるようになったら、次は「喉に負担をかけない発声=喉の開放」をしなければならない。これは「声を後ろに回して楽をする発声=合唱発声」とは全然違う。
 大切なことは、喉が痛むメカニズムを知った上で、いかにすれば喉を痛めずに済むかを実践するということだ。
 ここまでで散々、アマチュア劇団や学校演劇をこきおろしてきた。不愉快になっている人も少なくないだろう。ならば、問おう。アマチュア演劇の経験者諸君、君たちに発声を論理的に教えてくれた指導者はいたかね? 人体構造を基に仕組みを教えてくれたか?
 アマチュア指導者の8〜9割は、根性主義で腹筋を数やらせ、がならせる発声で必死さを問おうとしているばかりではなかったか?
 演劇2500年の歴史を甘く見てはいけない。演劇は極めて論理的な表現活動なのである。当然、その訓練法も論理があるものなのだ。論理的に教えられぬ者に、指導者の資格などはないのである。
 腹式をきちんとマスターせず、喉を開くということも知らないで、根性主義で発声を繰り返していても、その先にあるのは喉にポリープ(腫瘍)をつくるぐらいのものだ。
 実際、私はアマチュア指導者にいじくり回されて、喉を潰してしまった志望者を何十人となく見てきている。本番ともなれば、ガサガサのキーキー声で演じているのを、必死で頑張っていると勘違いしてる愚かな役者を何百人となく見てきた。
 一生、アマチュアでやっていくのであれば、それでかまわない。個人の自由だ。好きにやってくれればいい。
 しかし、マスコミ仕事で生きるプロフェッショナルを目指すのであれば、それは間違った道であると私は断言する。

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 ちなみに、もし、君が現在、養成所に通っているのであれば、今すぐにでもボイストレーナーの門を叩くことである。ボイストレーナーについて学ぶことが、発声においては最も効率が良いからだ。
 発声は第1段階/腹式呼吸、第2段階/喉の開放と来て、第3段階/共鳴(ベルカント、胸式)と発展する。が、この共鳴に至るステップまでをきちんと教えるのは、役者の講師よりもボイストレーナーのほうが優れているのだ。
 ボイストレーナーにつく時の選択ポイントは、歌唱専門ではないこと。いくつものスクールに見学へ行ったほうがいい。その時、トレーナーの骨格と体型が自分に似ていたら、それがベストだ。
 また、半年ついていても腹式呼吸ひとつ身につかなかったら、違うトレーナーに教わることだ。
 養成所にいるうちに、発声は身につけること。これはひじょうに大事なことである。
(なお、私個人は、ボイストレーナーの推薦などは一切しない。自分の目でみて判断してほしい)



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